運動会や行楽のお供、あるいはスーパーのお惣菜コーナーで親しまれている「助六寿司」。
甘辛いお揚げの「稲荷寿司」と、海苔の風味が香る「巻き寿司」の組み合わせは、日本人のソウルフードとも言えます。
しかし、なぜこのセットを「助六(すけろく)」と呼ぶのでしょうか?
実はその名前の由来は、江戸時代の人々が熱狂した「歌舞伎」にあります。この記事では、意外と知られていない助六寿司の誕生秘話と、そこに隠された江戸っ子の「粋(いき)」な遊び心を紐解いていきます。
1. 助六寿司の由来は歌舞伎『助六由縁江戸桜』
結論から言うと、助六寿司の名前は、歌舞伎十八番の一つである人気演目『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』の主人公、「助六」に由来しています。
1-1. 主人公「助六」と恋人「揚巻(あげまき)」
『助六由縁江戸桜』は、江戸の吉原を舞台にした物語です。
主人公の花川戸助六(はなかわど すけろく)は、紫の鉢巻を締め、番傘を差した伊達男(だておとこ)として描かれる、庶民のヒーロー的存在でした。
そして、この物語で重要な役割を果たすのが、助六の恋人である吉原の花魁(おいらん)、揚巻(あげまき)です。
助六寿司の由来は、この「揚巻」という女性の名前に秘密が隠されています。
1-2. 「揚巻」の名前に隠された洒落(ダジャレ)
江戸時代の人々は、言葉遊びや洒落を好みました。
助六寿司の「助六」という名称は、恋人の「揚巻」の名前にちなんだ、以下のような連想ゲーム(語呂合わせ)から生まれています。
- 揚巻(あげまき)という名前を分解する。
- 「揚」= 油揚げを使った稲荷寿司
- 「巻」= 海苔を使った巻き寿司
- この2つを詰め合わせた弁当を、「揚巻」の恋人の名前をとって「助六」と呼ぶようになった。
つまり、「稲荷と巻き寿司のセット」=「揚巻」そのものなのですが、あえてその名前を使わず、「揚巻といえば助六だろ!」と連想させることで、間接的に表現したのです。これこそが、直接的な表現を避けてひねりを効かせる、江戸っ子ならではの「粋(いき)」な演出でした。

2. なぜ稲荷と巻き寿司のセットなのか?
名前の面白さだけでなく、この組み合わせが定着したのには実用的な理由もありました。
2-1. 江戸のファストフードとしての機能性
歌舞伎の上演時間は長く、幕間(休憩時間)に食事をするのが当時の楽しみの一つでした。
しかし、混雑した客席で汁物や箸を使う食事は不便です。
その点、稲荷寿司と巻き寿司は以下のメリットがありました。
- 片手で食べられる: 箸を使わずに手でつまめる(フィンガーフード)。
- 汁気がない: 着物を汚す心配が少ない。
- 保存性が高い: 酢飯や煮締めた具材を使用しているため、常温でも傷みにくい。
このように、助六寿司は「観劇のお供」として非常に理にかなった形式だったのです。
2-2. 幕の内弁当との違い
歌舞伎鑑賞の食事といえば「幕の内弁当」も有名ですが、こちらは白飯とおかずが分かれた豪華な食事です。
一方、助六寿司はより手軽で安価な庶民の味として愛されました。当時の人々は、懐具合やシチュエーションに合わせて、幕の内と助六を使い分けていたのかもしれません。

3. 関東と関西で違う?助六寿司の地域差
「助六寿司」という名前は全国共通ですが、中身のスタイルには地域差が見られます。
- 関東の助六:
- 稲荷寿司: 俵型(米俵に見立てている)。味付けは濃いめ。
- 巻き寿司: 細巻き(干瓢巻き)が主流。
- 関西の助六:
- 稲荷寿司: 三角形(キツネの耳に見立てている)。味付けは薄めで出汁が効いている。
- 巻き寿司: 太巻き(具材が豊富)が入ることが多い。
歌舞伎の『助六』は江戸(関東)の演目ですが、寿司の文化自体はそれぞれの地域の特色を取り入れて発展していきました。スーパーなどで見かけた際は、巻き寿司が「細巻き」か「太巻き」か注目してみると面白いでしょう。
4. まとめ:助六寿司は江戸の粋が詰まったお弁当
助六寿司の由来について解説しました。
【ポイントまとめ】
- 由来: 歌舞伎の人気演目『助六』から来ている。
- 理由: 恋人の名前「揚巻」を、「油揚げ(稲荷)」と「海苔巻き(巻き寿司)」にかけた洒落(語呂合わせ)。
- 背景: 観劇中に片手で食べられる実用性と、江戸っ子の遊び心が融合して生まれた。
今度、助六寿司を食べる時は、「これは江戸時代のダジャレから生まれたメニューなんだよ」と話題にしてみてはいかがでしょうか。いつものお寿司が、少しだけ「粋」な味に感じられるかもしれません。

