最終更新: 2026-09-24
「培養魚肉」や「代替シーフード」という言葉を、ニュースで目にする機会が増えてきました。細胞培養技術で作られた魚肉や、植物由来の原料で魚介の味わいを再現した食品が、将来の寿司ネタになる可能性はあるのでしょうか。
結論から言うと、2026年9月時点では、米国で培養サーモンがすでに一部の寿司店・レストランで提供されている一方、日本国内では研究開発と規制整備の段階にあり、一般消費者が店頭で培養魚肉の寿司を食べられる状況にはなっていません。この記事では、断定的な未来予測ではなく、実際に確認できる企業の動き・研究段階・規制状況を一次情報に基づいて整理します。
培養魚肉・代替シーフードとは?基本を整理

まず、混同されやすい2つの技術を区別しておきます。
| 分類 | 作り方 | 主な目的 | 寿司での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 培養魚肉(細胞性シーフード) | 魚の細胞を採取し、培養液の中で増やして肉の組織を形成する | 天然・養殖に頼らないタンパク質供給 | 生食(刺身・寿司)用途を想定した製品も登場 |
| 植物由来の代替シーフード | 大豆・小麦たんぱくなどの植物原料で魚介の食感・風味を再現する | ヴィーガン・アレルギー対応、資源代替 | すでに一部の飲食店・商品で流通 |
| 代用魚(従来からある手法) | 別の魚種を近い食感・味で代わりに使う | 供給不足時のコスト・資源対応 | 回転寿司などで以前から実施 |
寿司の代用魚とは?15種の一覧と本魚の見分け方で解説している「代用魚」は、あくまで既存の魚種同士を置き換える手法です。培養魚肉・代替シーフードは、魚そのものを使わずに近い食体験を作ろうとする点で、根本的に異なる技術です。
海外で先行する培養シーフード:米Wildtypeの事例
培養シーフードの実用化で最も進んでいるのが、米国のWildtype社です。
Wildtypeは2025年5月28日、米食品医薬品局(FDA)から培養ギンザケ(コーホーサーモン)の販売許可を取得しました。米国で培養シーフードの販売が認められたのはWildtypeが初めてです(Food Dive、2025年報道、https://www.fooddive.com/news/wildtype-lab-grown-salmon-fda-clearance/750518/)。
同社の製品は、寿司や刺身用に生食できるブロック状の「サク」として販売されている点が特徴です。承認直後、オレゴン州ポートランドのレストラン「Kann」でメニューに採用されたのを皮切りに、カリフォルニア州サンフランシスコの寿司店「Robin」、テキサス州オースティンのおまかせ店「Otoko」など、複数の州のレストランに導入が広がっています(Green Queen、2025年報道、https://www.greenqueen.com.hk/wildtype-salmon-fda-lab-grown-cultivated-meat-restaurants/、テキサスの事例はCultureMap San Antonio、https://sanantonio.culturemap.com/news/restaurants-bars/texas-restaurant-1st-cultivated-salmo/)。
味・食感の実際の評価
Wildtype自身は、培養サーモンについて「風味・香り・食感・脂ののり方が従来のサーモンと極めて近い」と説明しています(Wildtype公式サイト、https://www.wildtypefoods.com/our-salmon)。これは企業側の発表であり、独立した第三者機関による評価ではない点に注意が必要です。
一方、試食したという消費者によるレビューブログでは、5段階評価で「B+」程度、「平日に食べる普通の回転寿司よりは良いが、名店の水準には届かない」という評価も出ています。個人の感想であり、店舗や調理法によって評価は変わり得ます。
価格・流通の現状
2026年9月時点で、Wildtypeの培養サーモンは前述の一部レストランで少量ずつ提供されている段階で、スーパーなどでの一般販売や、メニュー価格の統一的な公開情報は確認できませんでした。培養肉・培養シーフードは総じて従来品よりコストが高く、当面は高価格帯の飲食店での限定提供が中心になると見られます。
日本国内の培養シーフード開発:マルハニチロ×UMAMI Bioworks
日本国内でも、培養シーフードの研究開発は進んでいます。中心的な動きが、日本最大手の水産会社マルハニチロと、シンガポールの細胞性シーフード企業UMAMI Bioworksの協業です。
両社は2023年8月に培養シーフードの事業化に向けた協業を開始し、2025年5月9日には、マルハニチロの完全養殖クロマグロの細胞を用いた「細胞性クロマグロ」の共同開発契約を締結したと発表しました(マルハニチロ公式ニュース、https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/2025/05/9.html、日本経済新聞、2025年5月報道、https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP690761_Z00C25A5000000/)。同発表では、安定的な細胞株の樹立、生産能力の拡大、規制当局の承認取得、試験販売という4段階のマイルストーンが示されており、2026年9月時点ではまだ市場投入前の開発段階にあります。
UMAMI Bioworksは2025年10月16日、東京都内で細胞性食品の官能評価会を開催し、うなぎ(細胞含有率94%のサンプル)とキャビアの試作品を披露しました。参加したのは共同研究を行っている、または検討中の日本企業・大学関係者25名で、参加者からは「キャビア由来のサンプルには生臭さがなく、魚の匂いが苦手な人にも受け入れられやすいのでは」という感想が出たと報じられています(日本経済新聞、2025年報道、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC162AD0W5A011C2000000/)。これは限定的な試食会での参加者コメントであり、一般消費者向けの品質評価ではない点に留意してください。
うなぎの培養研究:資源保護の文脈
うなぎは稚魚(シラスウナギ)の減少が長年の課題であり、培養技術による代替が特に期待されている魚種の一つです。イスラエルのForsea Foods社は2024年1月、世界初とされる培養うなぎの試作品を発表しました。この試作品はにぎり寿司の形で提供され、Forbes JAPANも「細胞培養ニホンウナギがついに銀シャリの上に」として紹介しています(Foovo、2024年報道、https://foodtech-japan.com/2024/01/22/forsea-foods/、Forbes JAPAN、https://forbesjapan.com/articles/detail/68715)。ただしForsea Foodsはイスラエル企業であり、日本国内での販売や提携についての公表情報は確認できませんでした。
日本の細胞農業の基盤技術:IntegriCultureの動き
培養食品全般の国内基盤技術という観点では、東京の細胞農業スタートアップIntegriCultureの動きも参考になります。同社はフォアグラや鶏由来細胞の培養を主な研究対象としており、魚肉専業ではありませんが、2026年3月には住友理工との戦略的提携を発表し、シンガポールでの規制当局への承認申請を2026年内に完了させる目標を示しました(Foovo、2026年3月報道、https://foodtech-japan.com/2026/03/09/integriculture-7/)。細胞培養の生産技術・規制対応のノウハウは魚種を問わず応用可能とされており、日本国内で培養魚肉が実用化される際の技術的な土台になり得ます。
すでに動いている「植物由来」代替シーフードと寿司の接点
培養魚肉が研究開発段階にあるのに対し、植物由来の代替シーフードは、すでに国内の飲食店で提供された実績があります。
フードテック企業のグリーンカルチャー株式会社は2021年6月、植物性たんぱくを主原料とした魚肉「Green Meat Model F」を開発したと発表し、同年7月2日から東京・浅草の「Vege-Sushi Japan 浅草本店」で数量限定提供を行いました(グリーンカルチャー プレスリリース、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000038334.html)。これは日本国内で植物由来の代替魚肉が実際の寿司店のメニューに乗った早い事例です。ただし2021年の限定提供であり、2026年9月時点で同商品が常時販売されているかどうかは、今回の調査範囲では確認できませんでした。
より新しい動きとして、名古屋の株式会社かるなぁは2026年7月から、動物性原料を一切使わない小麦たんぱく主原料の「植物生まれのツナ」を販売開始すると発表しています(かるなぁ プレスリリース、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000117961.html)。こちらはツナ加工品としての展開が中心で、生食用の握り寿司ネタとしての用途は現時点の発表内容には含まれていません。
矢野経済研究所の2025年調査では、植物由来肉・植物由来シーフード・培養肉・培養シーフードなどを含む代替タンパク質の世界市場規模は、2024年時点で約5,723億円とされています(矢野経済研究所、2025年発表、https://www.yano.co.jp/press/press.php/003920)。この数値は魚介以外の代替タンパク質も含む市場全体の推計であり、寿司・水産分野に限定した数値ではない点に注意してください。
寿司文化・職人技との関係で考えるべきこと
培養魚肉や代替シーフードが仮に普及しても、それは寿司職人の仕事をそのまま代替するものではなさそうです。江戸前寿司の技術は、旬の魚を見極め、〆める・寝かせる・仕込むといった「素材を最良の状態に仕上げる」工程に多くが割かれています。この技術は、培養魚肉であっても代替シーフードであっても、ネタを最終的に握りへ仕上げる段階では引き続き必要になると考えられます。
一方で、培養魚肉・代替シーフードが今後実用化された場合に想定される論点としては、次のようなものが挙げられます。
| 論点 | 現状で確認できること |
|---|---|
| 資源保護への貢献 | うなぎ・クロマグロなど資源に不安のある魚種で研究が先行している |
| 価格 | 現時点で培養シーフードは従来品より高コストとされ、当面は高価格帯での提供が中心 |
| 味・食感の再現度 | 企業発表では高評価だが、独立した比較検証データは限定的 |
| 日本での実用化時期 | 2026年9月時点で、国内での一般販売時期は未確定 |
サステナブルな寿司の選び方全般については、サステナブルな寿司とは?養殖認証・環境配慮の最新動向を徹底解説でも、完全養殖や陸上養殖と合わせて触れています。培養魚肉・代替シーフードは、この記事で扱った「資源に配慮したネタ選び」の延長線上にある、より先端的な技術と位置づけられます。
日本国内での実用化に向けた規制の現状
培養食品が日本国内で販売されるためには、既存の食品衛生法の枠組みをどう適用するかという課題があります。2026年9月時点で、培養肉・培養シーフードに特化した個別の法律は日本にはなく、消費者庁の食品衛生基準審議会新開発食品調査部会が、2026年2月・3月の会合で細胞性食品向けのガイドライン案の検討を進めている段階です(消費者庁 会議資料、2026年3月30日、https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fscc_cms105_260327_5.pdf、Foovo、2026年2月報道、https://foodtech-japan.com/2026/02/12/japan-cellag-newchapter/)。
業界団体である細胞農業研究機構(JACA)は、2026年内に国内での試食・販売が可能になることを目指して政策提言を行っていますが、これはあくまで業界側の目標であり、2026年9月時点で規制の枠組みが確定したという公式発表は確認できていません。
培養魚・代替シーフードと寿司に関するよくある質問
Q1: 日本の寿司店で培養魚肉のネタはもう食べられますか?
2026年9月時点では確認できていません。国内では研究開発と規制整備の段階で、一般消費者向けの店舗提供は始まっていません。
Q2: 培養魚肉は安全なのですか?
米国ではFDAの審査を経てWildtypeの培養サーモンが販売許可を取得しています。日本では既存の食品衛生法を前提にガイドライン整備が進行中で、国内独自の安全性審査の枠組みはまだ確定していません。
Q3: 培養魚肉と植物由来の代替シーフードはどう違いますか?
培養魚肉は魚の細胞そのものを培養して肉の組織を作る技術、植物由来の代替シーフードは大豆や小麦たんぱくなどで魚介の食感・風味を再現する技術です。原料も製法もまったく異なります。
Q4: 培養魚肉が普及すると寿司職人の仕事はなくなりますか?
現時点で確認できる技術動向を見る限り、ネタを最良の状態に仕上げる職人の技術(目利き・仕込み・握り)が不要になるとは考えにくく、素材の選択肢が増える方向の変化として捉える見方が有力です。
Q5: どの魚種で培養技術の研究が進んでいますか?
資源量への懸念が大きいクロマグロ(マルハニチロ×UMAMI Bioworks)やうなぎ(UMAMI Bioworks、Forsea Foods)での研究事例が確認できます。サーモンは米国のWildtypeが実際の販売段階まで進んでいます。
まとめ:寿司の未来は「置き換え」より「選択肢の追加」から
現時点で確認できる事実を整理すると、次のようになります。
- 米国ではWildtypeの培養サーモンがFDA承認を得て、一部の寿司店・レストランで実際に提供されている(2025年5月〜)
- 日本ではマルハニチロとUMAMI Bioworksが培養クロマグロの共同開発を進めているが、市場投入前の段階(2025年5月時点)
- うなぎの培養研究は資源保護の観点から注目されており、UMAMI BioworksやForsea Foodsが試作品を発表している
- 植物由来の代替シーフードは、グリーンカルチャーの事例(2021年、浅草の寿司店)のように国内でも実際に提供された実績がある
- 日本国内の販売に向けた規制ガイドラインは2026年時点で検討段階にあり、実用化時期は未確定
培養魚肉・代替シーフードは、天然・養殖に代わる「唯一の答え」というより、資源に不安のある魚種を補う選択肢の一つとして育ちつつある技術です。今後の展開は、規制整備の進み方と、価格・味の実用レベルへの到達状況にかかっています。継続的な一次情報の確認が必要な分野といえるでしょう。
寿司ネタの資源事情についてさらに知りたい方は、サステナブルな寿司とは?養殖認証・環境配慮の最新動向を徹底解説や、寿司の代用魚とは?15種の一覧と本魚の見分け方もあわせてご覧ください。クロマグロの養殖・天然の違いについてはお寿司のマグロ完全ガイドでも解説しています。
参考情報
- Food Dive「Lab-grown salmon receives FDA approval」(2025年、https://www.fooddive.com/news/wildtype-lab-grown-salmon-fda-clearance/750518/)
- Green Queen「Weeks After FDA Approval, Wildtype Expands Cultivated Salmon Across US Restaurants」(2025年、https://www.greenqueen.com.hk/wildtype-salmon-fda-lab-grown-cultivated-meat-restaurants/)
- CultureMap San Antonio「Texas sushi restaurant makes waves with state’s first lab-grown salmon」(https://sanantonio.culturemap.com/news/restaurants-bars/texas-restaurant-1st-cultivated-salmo/)
- Wildtype公式サイト「Our Salmon」(https://www.wildtypefoods.com/our-salmon)
- マルハニチロ株式会社「UMAMI Bioworksと細胞性クロマグロの開発に着手」(2025年5月9日、https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/2025/05/9.html)
- 日本経済新聞「マルハニチロ、シンガポールのUMAMI Bioworksと細胞性クロマグロの共同開発契約を締結」(2025年5月報道、https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP690761_Z00C25A5000000/)
- 日本経済新聞「培養魚肉の新興、東京で関係者と官能評価 シンガポール発」(2025年報道、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC162AD0W5A011C2000000/)
- Foovo「イスラエルのForsea Foodsが世界で初めて培養うなぎの試作品を発表」(2024年1月、https://foodtech-japan.com/2024/01/22/forsea-foods/)
- Forbes JAPAN「細胞培養ニホンウナギがついに銀シャリの上に」(https://forbesjapan.com/articles/detail/68715)
- Foovo「インテグリカルチャー、住友理工と戦略的提携|2026年にシンガポールで承認申請へ」(2026年3月、https://foodtech-japan.com/2026/03/09/integriculture-7/)
- グリーンカルチャー株式会社「日本初!フードテックベンチャー、グリーンカルチャーが植物から魚肉を開発。浅草の寿司屋にて限定提供。」(2021年、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000038334.html)
- 株式会社かるなぁ「動物性原料不使用で”ツナ”の味と食感を再現」(2026年、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000117961.html)
- 矢野経済研究所「代替タンパク質世界市場に関する調査(2025年)」(https://www.yano.co.jp/press/press.php/003920)
- 消費者庁「食品衛生基準審議会新開発食品調査部会 会議資料」(2026年3月30日、https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fscc_cms105_260327_5.pdf)
- Foovo「消費者庁・新開発食品調査部会が細胞性食品製造向けガイドライン案の作成に着手」(2026年2月、https://foodtech-japan.com/2026/02/12/japan-cellag-newchapter/)
この記事は寿司スタジオ編集部が執筆しました。寿司スタジオは寿司の専門メディアです。ネタの知識・食べ方・名店・栄養・文化を網羅的に発信しています。詳しくは編集部についてをご覧ください。

