最終更新: 2026-10-21
ワタリガニ(ガザミ)は、ズワイガニやタラバガニと並ぶ人気の甲殻類ですが、寿司での扱われ方は大きく異なります。ズワイガニが生のまま握りに使われることがあるのに対し、ワタリガニは加熱や冷凍処理を経てから提供されるのが基本です。この記事では、ワタリガニが生食向きでない理由、内子・外子という2種類の卵を使った軍艦巻きの違い、旬・産地・栄養データまで、寿司ネタとしてのワタリガニを解説します。
ワタリガニ(ガザミ)寿司とは?基本情報

ワタリガニは標準和名を「ガザミ」といい、江戸時代から江戸前の内湾で親しまれてきた代表的なカニです。名前の由来は、最後の脚(第5脚)が平たいヒレ状になっており、これを使って海中を泳いで移動できることにあります。ズワイガニやタラバガニが深海の底を歩くカニであるのに対し、ワタリガニは内湾の浅場を泳ぎ回る点が大きな違いです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 標準和名 | ガザミ |
| 別名 | ワタリガニ、渡り蟹 |
| 分類 | エビ目(十脚目)ガザミ科 |
| 主な産地 | 愛知県・福岡県・愛媛県など伊勢湾、三河湾、有明海、瀬戸内海沿岸 |
| 寿司での提供形態 | 内子・外子・ほぐし身・カニ味噌の軍艦巻きが中心(生の握りは少ない) |
ワタリガニはなぜ生の握りで出てこないのか

ズワイガニやタラバガニが刺身や生の握りで提供されることがあるのに対し、ワタリガニは加熱調理や冷凍処理を経てから使われるのが基本です。これは、ワタリガニがウエステルマン肺吸虫という寄生虫を持つ可能性がある甲殻類だからです。この寄生虫は人の体内に入ると主に胸腔や肺に寄生し、咳や血痰、胸痛などの症状を引き起こすことが知られています。
予防には75℃で1分以上の加熱、または-27℃で24時間以上の冷凍が有効とされています。市場に出回る加工済みのワタリガニ製品は、多くが一度冷凍処理を経ているため寄生虫のリスクは低いとされますが、活きたワタリガニを生のまま食べることは避けるべきとされています。この加熱・冷凍の手間があるために、ワタリガニは「蒸して身をほぐす」「茹でて卵を取り出す」といった下処理を前提にしたネタとして寿司店に並ぶことになります。
内子と外子|2つの卵の違いと軍艦巻きでの使い方
ワタリガニの寿司ネタとして知られるのが、内子と外子という2種類の卵です。名前は似ていますが、場所も味わいも異なります。
| 項目 | 内子 | 外子 |
|---|---|---|
| 位置 | 体の内側(卵巣) | 腹部の「ふんどし」側に抱えた卵 |
| 状態 | 産卵前の卵巣。ボイル前は濃い紫色 | 受精後の卵。茶色いプチプチとした粒状 |
| 味付け | 塩漬けなどにして珍味として提供 | 醤油漬けなどで味を付けてから提供 |
| 寿司での扱い | 内子の塩漬を軍艦ネタに | 醤油漬けの外子を軍艦ネタに |
どちらも卵をそのまま使うのではなく、塩や醤油で下味を付けてから軍艦巻きに仕立てるのが一般的です。甲羅にほぐした身・内子・外子・カニ味噌を盛り付ける「甲羅盛り」も、ワタリガニならではの贅沢な食べ方として知られています。
ワタリガニの旬は雄と雌で違う
ワタリガニの旬は、雄と雌で時期が異なるという特徴があります。雄は身が締まる5月から11月の夏場、雌は卵を持つ11月から4月の冬場が旬とされ、なかでも秋に脱皮したあと身が充実する11月から1月が最盛期とされています。寿司店で内子・外子を使った軍艦巻きを味わいたい場合は、雌が旬を迎える冬場を狙うとよいでしょう。
ワタリガニの産地|内湾で育つ江戸前の記憶
ワタリガニの主な産地は、愛知県(伊勢湾・三河湾)、福岡県・佐賀県(有明海)、瀬戸内海沿岸などの大きな内湾です。波の穏やかな内湾は、砂泥底を好み浅場を泳ぎ回るワタリガニの生息に適しています。江戸時代には東京湾でも身近なカニとして親しまれていたとされ、江戸前寿司の記憶の中に残る食材のひとつといえます。
ワタリガニの栄養:低脂質・高タンパクな甲殻類
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」のがざみ(生)のデータによると、可食部100gあたりのエネルギーは61kcal、たんぱく質14.4g、脂質0.3gです。ズワイガニやタラバガニと同様、脂質がほとんどなく高タンパクな食材です。
| 栄養素(がざみ・生、可食部100gあたり) | 含有量 |
|---|---|
| エネルギー | 61kcal |
| たんぱく質 | 14.4g |
| 脂質 | 0.3g |
| ナトリウム | 360mg |
| カリウム | 300mg |
| カルシウム | 110mg |
カニ類全体での比較をしたい場合は、ズワイガニ寿司ガイドやタラバガニ寿司ガイドもあわせて確認すると、産地や分類上の違いが見えてきます。タラバガニは分類上はヤドカリの仲間で足が8本という点も、ワタリガニ(十脚目で足10本)との違いとして興味深いポイントです。
ワタリガニ寿司の魅力
- ズワイガニ・タラバガニと異なり、寄生虫対策のため加熱・冷凍を経てから提供される珍しいカニネタ
- 内子(卵巣の塩漬け)と外子(受精卵の醤油漬け)という2種類の卵を軍艦巻きで味わえる
- 旬が雄と雌で異なり、冬は内子・外子が充実する雌が狙い目
- 内湾を泳ぎ回る「渡り蟹」という生態が名前の由来になっている
ワタリガニ寿司に関するよくある質問
Q1: ワタリガニはズワイガニより足が少ないのですか?
いいえ、ワタリガニ(ガザミ)は十脚目に属し、ズワイガニと同じく脚は10本(うち1対はヒレ状の泳ぐための脚)です。タラバガニはヤドカリの仲間で脚が8本しかない点が、むしろ例外的です。
Q2: 寿司店でワタリガニの生握りを頼むことはできますか?
寄生虫リスクのため、生のまま提供されることは基本的にありません。内子・外子・ほぐし身・カニ味噌など、加熱や漬けの工程を経たネタとして提供されるのが一般的です。
関連記事: ニシンの寿司ガイド|身欠きニシンとの違い・旬・栄養を解説
関連記事: 鱧(ハモ)の寿司ガイド|骨切りが一人前の証・旬は夏と晩秋の2回
まとめ:ワタリガニ寿司のポイント
- ワタリガニ(ガザミ)は内湾を泳ぎ回るカニで、ズワイガニ・タラバガニとは生態も提供方法も異なる
- 寄生虫(肺吸虫)対策のため加熱・冷凍処理を経てから提供され、生の握りはほぼない
- 内子(卵巣)と外子(受精卵)という2種類の卵を軍艦巻きで味わえる
- 旬は雄が夏、雌が冬で、内子・外子を狙うなら冬が狙い目
- 寿司店で軍艦巻きを見かけたら、内子か外子かを確認してみると違いを実感しやすくなります
カニ類全体を比較したい方はズワイガニ寿司ガイド・タラバガニ寿司ガイドも、合わせてご覧ください。
参考情報
- 内閣府食品安全委員会「29. 肺吸虫」平成22年度食品安全確保総合調査(https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_29.pdf)— 確認日: 2026-10-21
- ぼうずコンニャクのWEB魚図鑑「ガザミ(ワタリガニ)」(https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%83%9F)— 確認日: 2026-10-21
- 酢飯屋「がざみ・ガザミ」(https://www.sumeshiya.com/blog/2019/11/post-5867.html)— 確認日: 2026-10-21(旬・江戸前での位置づけのクロスチェック用)
- calorie.slism「ワタリガニ」文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」引用(https://calorie.slism.jp/110332/)— 確認日: 2026-10-21(栄養成分、二次資料経由)
- 高級カニ専門松菱「カニの卵はある?内子と外子」(https://matsubishi.online/blogs/article/crab-eggs)— 確認日: 2026-10-21(内子・外子の違いのクロスチェック用)

